なぜ起こる? ラケット破壊の謎


錦織選手のファンになってから気付いたことなのだが、テニスを見ていると、選手がラケットを壊している光景を目にすることがある。そもそもラケットの破壊に限らず、何らかの競技で必要な道具を壊すなんてことはもってのほかであると考える人が大半であろう。テニスもラケットはテニスをするためだけではなく、勝敗を共にするパートナーのようなものだが、それにもかかわらず、なぜ多くの選手がラケットを壊してしまうのだろうか。

それを考えてみた時、筆者(中村)の見解では、やはりテニス選手がとてつもなく「孤独な状況」に立ち向かわなければならないことが原因ではないかとみている。例えば、男子ツアーではテニスのコーチは基本的に観客席に座り、試合中はもちろん、トイレットブレーク中に選手がコーチと会話することも禁止されている。女子では一部の大会で試合中のコーチの介入が認められているものの、4大大会ではそれが禁止されている。どちらかといえば、男子ツアーの方がコーチングの規制は厳しいものの、テニスは試合を自分でコントロールすることが強く要求されているスポーツだ。

つまり、テニスのプロツアーの試合中には選手に対して何のサポートのないまま、感情をコントロールしなければならないということになる。しかもテニスは基本的にルール上長丁場になりやすく、試合の状況もめまぐるしく変わる。最低でも1時間、長い時では4時間ほど、常に冷静に集中力を保つ必要がある。しかし、どんな人間でもコントロールが効かなくなる時はあり、もしアドバイスを受けたくなるほどその日のプレーの質が悪ければ、コーチのサポートがないことが災いして簡単にイライラを募らせる可能性が高くなる。イライラを募らせた結果、分かっていても持っている物につい当たってしまうという、ある意味反動的なものなのかもしれない。とにかくテニスは感情コントロールの波が起きやすく、そのことも選手の精神状態を難しくしているとも言える。

実はと言えば、男子テニスのフェデラー選手やジョコビッチ選手など、トッププレーヤーもラケット破壊の行為に及んだこともあるし、錦織選手もラケットを破壊したことはある。中にはラケット破壊が「ストレス発散」だとコメントした選手もいるが、すなわち、それだけテニスは頂点に立つ選手だとしてもスポーツマンシップを保てない瞬間が来るような難易度の高いスポーツだということだ。

もちろん、筆者はラケット破壊を擁護するつもりは到底ない。正直錦織選手が2017年シーズンに初めてラケットをコート上でたたきつけて破壊したときは幻滅してしまったほどだ。しかもテニスは個人競技の1つなので、振る舞いによって本当の性格やスポーツマンシップが明るみに出やすい。そこから考えれば、ラケット破壊というものは観客やテレビのファンからすれば、道具を乱暴に扱う不快極まりない行為であることは確かだ。テニスが非常に繊細で、そのゲームの流れによって精神状態が上下しやすいのも事実であることは否定しづらいが、やはりその厳しい状況の中で感情コントロールができたうえでスポーツマンシップを脅かすことなく試合に勝てるのであれば、それこそが真の一流のプレーヤーと言えるのではないだろうか。

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