世紀の一戦と肩の負傷


“メイウェザーとパッキャオによる世紀の一戦は、メイウェザーの判定勝ちに終わりました” ボクシングに全く詳しくない私にはこの一文で充分なのですが、アスレティックトレーナーと言う仕事をしている私には次の一文が非常に気になりました。”パッキャオは右肩を試合前から負傷していた”

一体どう言うことなんだろう?試合前に負傷していたのに、世紀の一戦に望んだ?もしくは試合前に痛みがあったが、試合中に悪化した?そもそもこれだけの注目が集まる試合なのになぜベストな状況で試合ができなかったのか?

私の記憶ではこのマッチアップはメイウェザーの都合で1度延期されているはずである。だからもうこれ以上の延期は出来なかった?

このニュースを聞いた時沢山の疑問が浮かんで来たので、ボクシングには全く詳しくないが記事を書かせて頂く事にしました。

この一戦でパッキャオに掛けていた人々や有利放送に加入した人など含めてどうやら集団訴訟になる様子で、この一戦の大きさが伺い知れます。要するにパッキャオ陣営が肩の怪我を隠していたんじゃないかと疑っているわけです。しかしパッキャオ陣営はネバダ州立体育委員会(NSAC)に事前に肩への抗炎症剤の注射(TORADOL)を米国反ドーピング機構(USADA)の許可を得た上で申請していたのに当日の注射を許可されなかったとしています。

試合後パッキャオは米ロスアンゼルス市内のカーラン・ジョーブクリニックのエラトラッシュ医師の診察を受けMRIなどの画像診断の結果右肩の腱板の損傷が判明、手術が必要である状態である事がわかりました。以前書いた野球選手の肘の靭帯損傷に関する記事にも出て来ましたがエラトラッシュ医師は非常に権威のある整形外科医であり、これまでレイカーズのコービー・ブライアントやドジャースのクレイトン・カーショーなど何人ものスポーツ選手を救ってきた医師です。

そんな凄いドクターが言うんだから、パッキャオ陣営はなぜ隠していたのか?と憤るのもわかりますが、アスリートと言うものはほとんどの場合何処かに痛みや怪我を抱えているものです。程度にもよるでしょうが、野球選手にも腱板が切れた状態で投げ続ける投手もいる位です。メイウェザーやパッキャオほどファイトを重ねてくれば必ず何処おかしいところはあるでしょう。ましてやパンチを繰り出す肩への負担は絶大です。

ファイティングポーズではどうしても肩をすくめて肩甲骨を前に持ってくる姿勢を取ります。肩甲骨が前に傾いた状態では腱板が上腕骨に至るまでに通るスペースがあるのですが、そこが狭くなってしまいます。つまりパンチを繰り出す度に狭いスペースで動き、骨と擦れ合って磨耗し、最終的には断裂に至ります。また腱板は腱ですので、筋肉が骨に付着する部分です。その筋肉がいわゆる肩のインナーマッスルであり、パンチを繰り出す度に肩の関節に安定性をもたらしてくれます。自分の意図通りにパンチが出れば良いのでしょうが、当たると思って当たらない場合や逆の場合がある様に、小さなインナーマッスルがあれだけのハードパンチで長年肩関節をコントロールするのは至難の技でしょう。パッキャオの長いキャリアを考えると肩の怪我はあってもおかしくないですし、それがこのタイミングの悪い時に症状として出てしまったのかも知れません。

これを踏まえた上でどれだけの準備をパッキャオ陣営の医療チームがしてきたか、と言う所が重要かも知れません。

詰まる所、事前に注射を試して経過が良好だったが、何故か許可が降りず痛みを抱えて試合に望まざるを得ない状況だった様に思えます。思わぬ所に足をすくわれたというのがパッキャオ陣営の気持ちかも知れません。

野球選手の肩の腱板や関節唇の手術後の経過は良いとは言えないので、パッキャオが長いリハビリの後再び輝けるかどうか、非常に興味深いですし、敗戦の悔しさを糧にまたハードパンチを繰り出してもらいたいですよね。

 

 

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